クリスマス・イブも午後11時を回ったというのに、少女は自室の窓を開け放ち、夜空に向かって手を組んでいた。
冬の冷たく乾ききった空気が流れ込み、少女の吐息は白く、頬と耳介は赤く染め上げられる。カーテンレールにはてるてる坊主が吊るされ、赤い画用紙を丸めた三角帽子とコットン製の顎鬚をつけて、ゆらゆら揺れていた。
冬の冷たく乾ききった空気が流れ込み、少女の吐息は白く、頬と耳介は赤く染め上げられる。カーテンレールにはてるてる坊主が吊るされ、赤い画用紙を丸めた三角帽子とコットン製の顎鬚をつけて、ゆらゆら揺れていた。
「雪……降らないかなぁ……」
少女の縋るような視線に、てるてる坊主は思わず顔をそっぽに向け素知らぬ風体を装う。
そもそも雨を晴らすのが本来の役割なのだから、彼に雪を切望するのは酷なのだが、純真な少女は尚強く強く雪の降らんことを祈り続けた。
「お願いサンタさん。今年はプレゼントはいりません。だから雪を降らせてください。ホワイトクリスマスって、とてもとても綺麗なんでしょう? わたしも一度見てみたいな……」
その言葉は真意のようで、毎年枕元に吊るしていた大きな毛糸の靴下の形はなく、代わりに七色の電飾が明滅しているクリスマスツリーの下に小さな台を置き、西洋の風習さながらクッキーとホットミルクを用意しているだけだった。あとは寝付けばサンタクロースをいつでも出迎えられそうなものだが、雪が降り出す瞬間を目に焼き付けるまでは眠れるはずがなかった。
しかし、待てども待てども雪の結晶は落ちてこない。
少女はなむなむとおまじないを必死に唱えているが、やはり空には白金の月が煌々と家々を照らすだけである。
「お願い、サンタさん。わたしいい子にするから……」
うっすらと目じりに浮かんだ涙粒は、より一層彼女の願いの強さを裏付ける。
跪き天を仰ぎ、手を組んだまま懇願する姿は、まるで懺悔のようだ。
「もう、エリちゃんの嫌がることはしません。キモいとかうざいとか、ゴミとかブスとか言いません。上靴を隠したり雑巾を顔にぐりぐりしたり頭から泥をかけたりしません。教科書を墨汁で真っ黒にしません。給食の中に虫を入れたりしません。外履きに画鋲入れたりしません」
少女は目を瞑り、掠れた声で言った。
「だから、ホワイトクリスマスにしてください」
突然、ぴゅうと風が吹いた。
みるみるうちに外気が湿潤したものへと入れ替わり、遠くの山からにび色をした雪雲が運ばれてくる。
少女は目を見張り、「もしかして、サンタさんにお願いが届いたのかしら」と興奮した口ぶりで窓から身を乗り出す。
「……あっ! 雪だ! ここにも! あそこにも!」
クリスマス・イブが終わりクリスマスに変わる頃、空から小さな氷の結晶が舞い降りてきた。
初めは疎らだったのだが、段々と氷の結晶の数は増えていき、終いには数えるのも億劫な程になった。
そのとき、しゃん、と鈴の音が少女の耳に届いた。
鈴の音の正体は分からないが、少女に確信を抱かせるのには十分だった。
「ありがとうサンタさん! わたしがこれからも私、『今までと変わらず』いい子にしてるね!」
少女は手を振りながら、高い高い空の、雲の上にいるであろうサンタクロースに感謝の言葉を告げた。
PR
コメントを書く
プロフィール
HN:
マリツキ
HP:
性別:
男性
自己紹介:
bush cloverの主宰者やってます。
bush cloverというのは同人ゲーム製作サークルですよ。
担当はシナリオ、音楽、背景などなど。
作詞や演劇の脚本とか書いてみたいと思う今日この頃……。
bush cloverというのは同人ゲーム製作サークルですよ。
担当はシナリオ、音楽、背景などなど。
作詞や演劇の脚本とか書いてみたいと思う今日この頃……。
カレンダー
最新コメント
ブログ内検索
忍者カウンター